なおのブログ

文章書くのが好きでラノベを読むのが趣味な僕がお遊びで書く小説です^_^

異世界宅配日記⑴ 序章

風がなびく。のどかな緑野が広がり、所々

にある木々の音がさざ波のようだ。時々チュ

ンと小鳥たちの鳴き声が聞こえ、周りを見渡

すと草を食べる小動物も観察することができ

る。

この場所には既に幾度か訪れているが、いつ

来ても気持ちがいい。日本で言うならば桜並木

を歩いている感覚に似ている。

俺が住んでいた世界ではこのような情景は

存在しない。強いて言うならば田舎は少しだ

けこれに近いかもしれないが、田んぼや畑し

かない風景を眺めて喜ぶのは年齢的にまだ早

い気がする。

今日はあいにく仕事の都合で来ているため

ゆっくり堪能する時間はないが、いつかはこ

こで仕事仲間と共にピクニックをしてみたい

ものだ。

そんな事を考えながら、俺は緑野をただひ

たすらに走っている。それもこの世界には存

在するはずもない相棒の上に乗って。

そして、いつものように無線が入る。

『こちらアルファス支部のリン。応答どう

ぞ』

何度聞いても耳の中に残る透き通った綺麗

な声。野球でいうならばウグイス嬢のような

ものである。

リンと名乗る女性は仕事の一環として、俺

に無線を使い話しかけてきた。だがこの世界

にはスマートフォンどころかトランシーバー

もない。言うなれば、電子機器といったハイ

テクなものは存在しないのだ。

それでも会話ができるのは、俺が首からか

けているネックレスについた青い鉱石のおか

げである。

「はい。こちらアルファス支部の悠太(ゆう

た)。応答どうぞ。」

胸元のネックレスに向け返事をすると、青

い鉱石は光をまといつつ再び彼女の声が返っ

てきた。

「お疲れ様。出発してから30分が経過したか

ら現在の近況報告を教えてくれる?」

「‥‥‥‥‥‥」

「‥‥ちょっと悠太くん?聞こえてる?」

「‥‥‥‥あっごめんごめんぼーっとして

た」

「もう、あなたって人は。仕事中なんだから

もっとしっかりしなさいよ」

「悪かったって。リンの声っていつ聞いても

綺麗だなって思っただけだよ」

「えっ!ちょ、ちょっと何言って‥ッきゃ

あ!」

ガラガラガッシャン!と大きな音が返って

きた。向こうで何かあったのだろうか。その

後なぜかリンが「お、お騒がせしてすみませ

ん!」と謝っている声も聞こえた。

「お、おーいリン。大丈夫か?」

さすがに心配になった俺は、とりあえず声

をかけてみる。しかしすぐに返事がこない。

しばらくするとその女神のような声ではな

く、怒りを交えた鬼のような怒声が返ってき

た。

「バカ!!!あなたのせいでとんだ恥をかい

てしまったじゃない!」

「い、いきなりなんだよ。俺が何かしたって

言うのか?」

「したから言ってんの!ったく、あなたと喋

るとなぜか調子が狂ってしまうわ‥‥」

リンとてそんな甘い女ではない。元々声の

評判は高く同僚仲間や上司、友人たちからも

よく褒められていた。自分では言われ慣れて

いるはずの「綺麗な声」という言葉。だが悠

太からそれを言われると顔から熱が発する現

象が起こる。

彼がこの世界に来るまでには起こるはずも

なかったその感情。リンはまだよくわかって

いないが、いずれその答えに気がつくのも時

間の問題である。

「と、とにかく!早く今の近況を教えなさい

よ。あなたのせいで次の仕事が進まないじゃ

ない!」

「だから俺が何をしっ」

「いいから早く言いなさい!!」

リンがなぜこんなに怒っているのかいまい

ち理解できないが、これ以上長引いても仕方

ないので俺は答えることにした。

「わかったよ‥‥えっと、今はレコン緑野に

いて後10分程で目的地のカイミル村に到着す

る予定。依頼品に目立った損傷はなし。外敵

もいないからこのまま無事にたどり着くよ」

「そう。相変わらず早いわね。その『バイ

ク』っていう乗物だと」

「そっちだって『魔法』っていう便利なもの

があるじゃねえか。俺の世界じゃ考えられな

いよ」

そう。もうお気づきだと思うが、ここは日

本でもなければ地球でもない。


紛れもない、ここは『異世界』


これは、地球で大手郵送会社に勤務してい

た水橋悠太(みずはしゆうた)21歳が突如異世

界に転生し、相棒のバイクと共に異世界を宅

配する物語。